社外取締役の選任が急速に進む中、D&O保険への加入件数も全国的に大幅に増加しています。
今回の注目はD&O保険の保険料の負担です。
一般的なD&O保険とは会社役員賠償責任保険と言い、第三者訴訟で役員が損害賠償責任を負った場合に支払われる「普通保険約款」と、株主代表訴訟で役員が敗訴した場合に支払われる「株主代表訴訟補償特約(自動で付与される)」に分けられており、このうち「株主代表訴訟補償特約」は、あくまで会社の損害に対して役員が負う責任への保証であるため、保険料は役員が個人負担(保険料全体の約1割が一般的)する慣行が定着しています。
株主代表訴訟補償特約は役員の損害賠償責任を補填するものであるとはいえ、それによって結局は「会社の損害」も回復されることになります。このため、会社が保険料を負担しても問題ないのではないかとの意見がありました。
株主代表訴訟補償特約の保険料を会社が負担してはならないという意見の根拠として、役員の損害賠償責任の発生に備える保険の保険料の会社負担を認めるということは、役員が安心して会社に損害を生じさせることができるよう、会社が保険料を支払うことを許容するに等しく、それ自体が会社法355条に規定する「(取締役の)忠実義務違反」に抵触しかねないというものがありました。
D&O保険は犯罪行為や法令違反を認識しながら行った行為など悪意ある行為に基づき生じた損害は保険金の支払い対象外としていることから、通常の職務執行から生じる不可避的なリスクのみをカバーしている
(2015年4月22日のニュース「責任限定契約を締結すればD&O保険は不要か」参照)
つまり株主代表訴訟補償特約の保険料を会社が負担したからといって、役員が会社にわざと損害を生じさせるが働くとは考えにくいと考えられます。
会社法の解釈の明確化
(1) 従前の取扱い
会社役員賠償責任保険は、会社法(商法)上の問題に配慮し、従前、普通保険約款等において、株主代表訴訟で役員が敗訴して損害賠償責任を負担する場合の危険を担保する部分(以下「株主代表訴訟敗訴時担保部分」といいます。)を免責する旨の条項を設けた上で、別途、当該部分を保険対象に含める旨の特約(以下「株主代表訴訟担保特約」といいます。)を付帯する形態で販売されてきました。
また、株主代表訴訟担保特約の保険料についても、会社法(商法)上の問題に配慮し、これを会社が負担した場合には、会社から役員に対して経済的利益の供与があったものとして給与課税の対象とされていました(別添「会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて」参照。)。
(2) 会社法の解釈の明確化
このような状況の中、コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会(経済産業省の研究会)が取りまとめた報告書「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」(平成27年7月24日公表)においては、会社が利益相反の問題を解消するための次の手続を行えば、会社が株主代表訴訟敗訴時担保部分に係る保険料を会社法上適法に負担することができるとの解釈が示されました(当該報告書の別紙3「法的論点に関する解釈指針」11~12頁参照)。
1、取締役会の承認
2、社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意又は社外取締役全員の同意の取得
2、新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱い
今般の会社法の解釈の明確化を踏まえると、会社が株主代表訴訟敗訴時担保部分に係る保険料を会社法上適法に負担することができる場合には、株主代表訴訟敗訴時担保部分を特約として区分する必要がなくなることから、普通保険約款等において株主代表訴訟敗訴時担保部分を免責する旨の条項を設けない新たな会社役員賠償責任保険の販売が想定されます。
以上を踏まえると、今後の会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いはどのようになりますか?
(注) 損害保険会社各社において、普通保険約款等の変更に時間を要する等の事情があることも考慮し、普通保険約款等を変更するまでの暫定的な取扱いとして、普通保険約款等において設けられている株主代表訴訟敗訴時担保部分を免責する旨の条項を適用除外とし、普通保険約款等の保険料と株主代表訴訟敗訴時担保部分の保険料が一体と見なされる旨の特約を追加で付帯したものについても新たな会社役員賠償責任保険に含まれるものと考えます。
回答:照会内容を前提にすれば、今後の会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについては、以下のとおりに取り扱われるものと考えます。
1、新たな会社役員賠償責任保険の保険料を会社が上記1(2)1及び2の手続きを行うことにより会社法上適法に負担した場合には、役員に対する経済的利益の供与はないと考えられることから、役員個人に対する給与課税を行う必要はありません。
2、上記1以外の会社役員賠償責任保険の保険料を会社が負担した場合には、従前の取扱いのとおり、役員に対する経済的利益の供与があったと考えられることから、役員個人に対する給与課税を行う必要があります。
保険会社としては会社の経費で落として頂いた方が加入率が上がる可能性が高いので会社法上適法になる保険商品の開発が行われると予想されます。